いきものたちはわたしのかがみ

近作

ミロコマチコは、絵本作家デビュー前後から、時には音楽家と共に、延べ50回以上のライブペインティングを行ってきました。本展では、2016-2019年のライブペインティング作品をはじめとした絵画が一堂に会します。鋭い観察力でいきものの本質を捉え、ダイナミックなタッチで描きあげるのは、だれもがよく知るミロコマチコの表現ですが、2016年頃からモチーフが変化しました。身体の中を複数のいきものが埋め尽くす作品や、チョウの翅に自身の目が映りこんだ作品など、近作からはその後大きく表現が変容するきざしが見て取れます。

《音のどうぶつ》 2017年
《チョウにうつす》 2018年
《貝殻のいきもの》 2018年
《たくさんのいきものでできている体》 2018年

装画・アートディレクション

絵本作家や画家としての活躍のほうが広く知られるミロコマチコですが、書籍の装画や企業とのコラボレーションなど、イラストレーションやアートディレクションといった仕事も数多く手がけています。文字のレイアウトや作品のトリミングなど、必然的に他者の手が加わることが前提にあるため、自分が思うように描ける絵画作品とは異なる緊張感がただよいます。同時に、デザイナーの手によって、自身の表現が広がることへの期待感のような、絵によって他者とコミュニケーションすることの楽しさが伝わってくるでしょう。

『万引き家族』表紙・題字
是枝裕和著、宝島社 2018年
『万引き家族』表紙・題字
是枝裕和著、宝島社 2018年
《ハマグリ》 2016年
《キンパ》 2018年
《カイワレ大根》 2018年
《カッサータ》 2019年

絵本原画

ミロコマチコは、絵本作家としてデビュー以後、1年に約1冊のペースで絵本を発表してきました。豊かな想像力とのびのびとした筆致が魅力的な絵本は、2014年を境にさらに自由に、色彩豊かになり、においや手触りなど五感をも刺激するものへと変容しました。加えて、読み手によってさまざまな解釈ができる余白もうまれました。本展では、ブラティスラヴァ世界絵本原画展(第26回)において金牌を受賞した『けもののにおいがしてきたぞ』(2016年、岩崎書店)をはじめ、『まっくらやみのまっくろ』(2017年、小学館)、『ドクルジン』(2019年、亜紀書房)の3冊の近作絵本の原画を紹介します。

《けもののにおいがしてきたぞ》 2016年
《まっくらやみのまっくろ》 2017年
《ドクルジン》 2019年

山形ビエンナーレ

2016年と2018年に参加した山形ビエンナーレは、ミロコマチコにとってのターニングポイントであったといっても過言ではありません。山車のまわりをぐるりと回りながら読むのが楽しい《あっちの耳、こっちの目》は、人間と野生動物のそれぞれの視点で綴られた二つの「おはなし」でできた立体絵本です。人間と野生動物が同じ場面を共有しながらも、両者の意識が交錯することはなく、自然のなかにおける人間の在りかたが問われます。

画像提供:Kanabou、東北芸術工科大学

《あっちの耳、こっちの目(クマのおはなし)》2016年
《あっちの耳、こっちの目(カモシカのおはなし)》2016年
《あっちの耳、こっちの目(とりのおはなし)》2016年
《からだうみ》 2020年

新作

東京での暮らしは便利でしたが、山形のような自然のほうが圧倒的な土地では、それらが何の役にも立たないことを実感したミロコマチコは、2019年6月奄美大島に移住しました。島のほとんどが山で、人間は海と山の間でちいさく暮らすこの土地で、彼女は見えないものの音を聞き、見えないものの気配を感じるようになりました。新作には、霊性を帯びた未知なる存在が登場しています。まばゆく、決まったかたちを持たない彼らは一体何者なのでしょうか。

《夜を通るいきもの1》 2020年
《くるむ》 2020年
《海の呼吸》 2020年